日曜の朝、くすぐったさで目が覚める。首筋に重なるのは柔らかな頭髪。素肌に触れている
のは、まだ少女の面影を色濃く残した裸身。しなやかさに溢れる肢体の全てを露わにしたまま で眠りこけている。
「おはよう、雪城なぎさ」
気持ちよさそうに眠っているなぎさへの呼び掛けは、わざと名字をつけて。ほのかは、自分と
同じ姓に染まった彼女を見て幸せそうに微笑む。
同性では結婚できないので、両親に二人の真摯な仲を理解してもらった上での養子縁組の
結果、ほのかとなぎさは二人一緒の姓をお互いの名の上に載せることになった。
ふたりでひとつの姓。
ふたりでひとつの部屋。
ふたりでひとつのベッド。
ふたりでひとつの…愛。
考えていると胸の内がくすぐったくなってきた気がして、ほのかはそれを誤魔化すようになぎ
さの髪を撫でた。
(ちょっと髪伸びたかな?)
そっと通した指で優しく梳きながら、来週辺りにでも散髪してあげようと思った。
髪は女の命。
ならば、なぎさの髪形をいじってよいのは、この世で一人、私だけ。
二人が同棲生活を始めて以来、その一点だけは頑なに貫き通してきた。
でも、ほのかは髪が伸びたらちゃんと美容室に通う。……いつかは、なぎさに髪を任せられ
る勇気(度胸や覚悟と言いかえてもよい)を手に入れたいと、そこはかとなく思いながら。
(もうすぐ8時30分ね……)
なぎさを起こさぬようベッドを抜け出し、毎週二人が楽しみにしている『ふたりはプリキュア
Splash☆star』を録画しておく。
部屋に戻ってベッドに潜り込む前に、なぎさの頬に「チュッ」とキス。可愛い寝顔を見せてくれ
る彼女へのご褒美だ。
再び触れ合う二つの裸身。素肌と素肌。そして温もり。
眠る前の熱い夜を思い出して、ほのかは頬を上気させた。
なぎさの肩に這わせた指が、少しずつ滑って下りていく。胸のふくらみのラインをなぞると、く
すぐったそうに身じろぎしたが、起きる気配は無い。わき腹へと滑って行った指が寄り道をし て、可愛らしいおへそへとご挨拶。
「ん…」
なぎさが小さく声を洩らしたが、まだ起きない。
指はさらに下りていく。乙女の草生えを越えたすぐその先は、ほのかが一番大事に扱うべき
場所。同時に、なぎさが一番悦んでくれる場所でもある。
なぎさが眠ったままなのを確認してから、女芯の部分にゆっくりと優しい愛撫を加える。真夜
中を過ぎても眠らせてもらえなかったなぎさは、深いノンレム睡眠の中でその快楽に酔った。
(なぎさのカラダ……寝てるのに反応してる……)
ぴく…ぴくっ…と、さざなみのようにひくつくなぎさのカラダ。ほのかの送る微弱な快感に、ただ
為されるがままに翻弄されている。
(こっちも……さわってほしいでしょ)
もう一方の手をなぎさの胸へ這わす。つんっ…つんっ…と両胸の先っぽを交互に指先で優し
くタッチ。目覚めることも出来ず、カラダだけが快感に悶えている。今だけは、なぎさの支配権 は、完全にほのかに握られていた。
ゾクゾク……ッ。
ほのかの背筋に走る淫靡な愉悦。
自分の秘所を慰めたくなるのを我慢して、目の前の裸体にこっそりと悪戯を続けた。
そぉーっとなぎさの乳首を口に含んで、舌先で触れる。かすめるような弱い快感では意識に
まで届かないが、なぎさのカラダをよがらせるのには充分だ。
(ほら、気持ちよくなってる)
彼女の素肌に這わせた指先で、ぴくんっ…ぴくんっ…という快楽反応を感じ取る。
(さらにはこんなことをしてみたりとか……)
なぎさの耳元近くにすぼめた口を近づけて、フゥーッと針のように細い息を吹きかけてみる。
耳の凹凸をなぞるように這った空気のくすぐったさに、なぎさのカラダは否応なしに身悶えさせ られ、ほのかの指先にまた快楽反応を伝えた。
(反対側の耳にもしてあげる……)
耳に細い吐息を感じた途端、びくっ…となぎさの顔が逆方向に逃げた。
(もーっ、逃げちゃダメでしょ…)
お仕置きとして、なぎさの股間に手を差し入れて、つんっ!…とクリトリスを強く突っついた。
びくんっ!
なぎさの背筋が小さく反った。
(ごめんなさい、なぎさ。痛かった? ……それとも気持ちよかった?)
もう一度、つんっ!と強く。
「…んっ!」
今度は反応に加えて、明らかに快楽の色を含んだ声が洩れた。なぎさの寝顔が悩ましげに
眉を寄せる。
(もっと? もっとしてほしいの?)
ほのかは興奮の汗をじっとりとこめかみに伝わらせながら、なぎさのクリトリスを優しく摘んで
丁寧にしごきたてた。「んんっ…」とうめいて、なぎさのカラダがなまめかしい動きを見せる。快 楽の焔で一番敏感な部分を炙られながら、何度も何度もベッドの上で身をくねらせ、ついには 眠りに落ちたままで絶頂に達し、その瞬間に目を覚ました。
「あっ…あっ…」
息切れの合間に紡がれる余韻の声。ぼぉーっと法悦に浸っていたなぎさの上に、ほのかが
自分のカラダを覆い被せてきた。
「おはよう、なぎさっ」
朝の挨拶と共に熱いキス。さらには舌を差し入れて、なぎさの舌を絡め取る。
「んんーっ!」
声にならないなぎさの抗議を聞き流してディープキスに没頭していたほのかの天地が突然入
れ替わった。
一瞬にして攻守は逆転し、今度はなぎさのキスがほのかの唇をむさぼった。息を継ぐヒマも
与えない強引なキスに、ほのかは喜んで屈服した。
「ぷはっ」
窒息寸前で二人の唇が離れる。忙しく喘いで肺の中に酸素を送り込みつつ、ほのかの上に
乗ったままなぎさが詰問。
「……で、眠ってるアタシに何をしてたワケ?」
「え、えーっと……」
言イ訳ナンテ許サナインダカラネ。据わった目で警告してくるなぎさに、ほのかは素直に謝ろ
うとした。だが、それをさえぎるかのように、「やばっ!」となぎさが大声を上げた。
「今日って日曜でしょっ!? ほのかっ、今何時何分!?」
朝8時30分からの『ふたりはプリキュア Splash☆star』 これなくして日曜日は語れない。
ほのかに背を向け、ベッドから転がり出たなぎさ。そのままテレビの前に駆けつけようとした
が、その試みはたやすく阻止されてしまった。
ほのかの細腕が、背後から回されてきた。ただ触れているだけの、羽毛の如く軽く力を込め
ただけの抱擁で、なぎさの動きは見事に止まってしまった。
「なぎさ……私とSplash☆star、どっちを選んでくれるの?」
録画してあることは黙って、なぎさのことを試そうとするイタズラな子猫。
なぎさの背中で潰れる柔らかな二つの果実の誘惑。さらには耳元で、「熱い汗をかいた後の
シャワーは気持ちいいわよ」と、今からする行為をほのめかして誘惑してくる。続けてほのかが 「どっち?」と訊いてきた。
「…………ほのかです」
誘惑に堕ちて、悔いなし。
「熱い汗、いっぱいかこうか」
ほのかに向き直って、人差し指で彼女の額をつんっ…と押した。天女を思わすゆったりとした
動きで、ほのかがベッドの上に倒れていった。仰向けに寝そべったほのかは、翼を広げるよう に、両腕を大きく開く。目に焼きつくような白い裸体。なぎさの前に自分のカラダの全てをさらけ 出して、甘やかなささやきを紡ぐ。
「……来て」
上に乗ってきたなぎさがさっそく唇を奪う。両手も積極的に動かして、ほのかの乳房を二つ同
時に揉みしだいている。
「なぎさ…なぎさっ……」
いつもならゆっくり愉しむ余裕のあるほのかだが、今朝は先程なぎさへと仕掛けた悪戯のせ
いで、随分と腰の奥が疼いてしまっている。もうガマンが出来ない。
性急な呼びかけから、ほのかの下半身の事情を察してしまう辺り、さすが夫婦的な間柄とい
ったところか。なぎさはほのかの両脚を大きく割って、その間に自分の股を奥深くまで滑り込ま せる。
「ほのか、激しくするよ……」
ほのかは微かにうなずいて、軽く歯を食いしばった。
なぎさは密着した股間をニ三度揺すって、秘所同士が擦れ合う位置を合わせ、ゆっくりと腰を
振り始めた。
「うぅ…んっ!」
押し殺したほのかの喘ぎ声。だが、次の瞬間には閉じた両目の上で睫毛を振るわせて、「あ
あ゛ぁーっ!」と大きな嬌声を吐き出していた。
なぎさは自分の言葉通りに、がむしゃらに腰を使い出す。激しく繰り返される腰の前後運動。
野球に例えるならば、なぎさのセックスはストレート三球勝負だ。変化球は一切無く、単調な攻 めだけだが、それが逆に力強くて、何よりもなぎさらしさを感じさせてくれるその真っ直ぐさが、 ほのかを心から虜にしていた。
「ああ゛ぁぁぁぁーっ、なぎさぁぁぁーっ、もっとメチャクチャにしてぇぇぇーッ!」
快感で潤った股間の粘膜同士を激しく擦り合わされ、快楽の熱がほのかの脳を焼き焦がし
ていく。
なぎさは容赦なく腰を振りまくった。その動きに合わせて、ほのかの華奢なカラダがベッドの
上でがくがくがくがくっ…と激しく揺れた。まるで、嵐の海で翻弄されている小船のようである。
なぎさの腰使いのラッシュがさらに高まる。まさにほのかを責め殺さんばかりの勢いだ。敏感
な秘所を強震に直撃され、ほのかは眦(まなじり)に溜まった涙の粒を飛び散らせながら、頭を 左右にブンブンと振った。
「あッ! あ…アアッ! だめっ…、やっ…やぁぁぁぁッ! ダメッ、なぎさ…おかしくなるぅぅぅッ
ッ!!」
部屋どころか、家中に響き渡るような声で喘ぎ叫ぶ。その声に、ほのかの絶頂が重なった。
……………………。
汗の噴出したカラダをほのかの上に預けて、ぐったりと瀕死の呼吸を繰り返すなぎさ。全力
疾走で駆け抜けたランナーの下では、ほのかが二人分の熱い体温に蒸されつつ、快感の余韻 に意識を沈ませていた。
「……ほのか……大丈夫?」
ほのかがうっすらと目を開いたが、潤んだ瞳はまだ焦点が合っていない。情事の後の倦怠感
が強く彼女の身に染み付いていた。
「ねぇ、ほのか…?」
自分へ呼びかけているのが、なぎさの声だとようやく認識。その途端、ぼんやりとだが目の意
識が戻ってきた。
パシンっ。
なぎさの背中を、ほのかの平手打ちが引っぱたいた。
「えっ、なに?」
事情の分からないなぎさが、きょとんとした顔でほのかを見つめる。そんな彼女の背に、また
パシンっと平手打ちが叩きつけられた。何度も何度もパシンっ、パシンっ、パシンっ、パシンっ、 パシンっ、パシンっ…………。
本当によく分からないが、ほのかが自分の事を睨んできてるので、つい怯んでしまう。
「馬鹿っ…」
叩くのも疲れたのか、今まで叩いていた背をギュッと抱き締め、ほのかが少し涙ぐみながら
呟いた。
「なぎさの馬鹿……、あんまり無茶苦茶して私の体が壊れたらどうするのよっ。最後はちょっと
恐かったんだから……」
「……ごめん」
そう言って、なぎさが頬をくっつけてくる。詫びるように、ほのかの黒髪が優しく撫でられる。安
心したせいで、ほのかの緊張もほぐれ、眦からは涙が溢れてきた。ほのかが鼻をすすりながら 静かに泣いている間、ずっとなぎさは慰めていてくれた。
「……でも、なぎさ、その……最後は恐かったけど……すごく気持ちよかったの……」
くすっ…とほのかは笑った。泣いてすっきりした後には、やっぱりなぎさへの愛しい気持ちが
胸を占めていた。
「最後のあの時、なぎさの気持ち……すごく感じた。なぎさが私のこと心から愛してくれてるんだ
って全身で感じたの」
「心から愛してなかったら、そもそも抱いたりなんてしないよ」
そして、なぎさの唇が自然にほのかの唇へと重なった。
「ほのか、じゃあシャワー浴びに行く?」
「その前に……私、その」
はにかみながら、なぎさの目を間近で覗き込んだ。
「もう少し……なぎさと一緒に汗をかきたいの。……ダメ?」
小首を傾げて、花も恥らうほどに可愛らしい仕草。ほのか本人は小悪魔を意識して誘惑して
みたつもりだが、なぎさの目には天使に映った。
「んー、でも、アタシだってもう昨日から連続だもん。疲れちゃったから……」
ほのかを抱いたまま、ごろり…とベッドを転がった。
「今度はほのかがしてくれる?」
真下になったなぎさに向かって、ほのかが優しく微笑む。
「さっきのなぎさみたいに、私、一生懸命がんばるね。そして、私がなぎさのこと心から愛してる
んだって、全身に感じさせてあげる」
「心から愛してなかったら、そもそも抱いたりなんてしないでしょ」
二人で顔を見合わせて、クスクスと笑いあう。
そして、再び始まる睦み事。
(endless)
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